2005.6 June
特集 個に対応する国語科教育[1]−発展学習
【論文】[1]  個に応じた指導形態の工夫 藤井知弘
1 問題の所在

 「個に応じた指導」というフレーズは教育界において最もよく使用される用語の一つといえる。学習が一人一人の能力を伸ばすものである限り、個の問題をどのように全体の学習の中で考えていくのかは、ずっと教室における追求課題であった。このことは、とかく一斉指導に対する批判と取られることも少なくなかった。しかし、現実的には一人の教師が多くの生徒を教えているという形態がほとんどであり、そうした一斉指導の中において効果的な学習指導を希求するのは至極妥当な方向といえる。ただし、ここでは「画一」ということと「一斉指導」が同義ではないことを確認しておきたい。
 一方、個をとらえる時に、「個性」を生かすということも視野に入ってくることである。個性とは何かといえば「生徒一人一人の思考、判断、表現や行動の内容や傾向のよさ」と定義することとする。一人一人のよさは、学習上で様々な形で具体化することとなる。それは、関心・意欲・態度や進度、到達度や実現状況に現れたりする。
 以上二つのことを合わせ考えると学習者一人一人の個性を保障した学習が展開しつつも、それが集団である教室において生かされることによって初めて「個に応じた」学習指導となるといえよう。しかし、中・高等学校における学習の状況はどうであろうか。一部の教師による意欲的な実践が展開されているものの、多くは依然として教師主導型の一斉指導(学習ではなく、教授的な形)となっていないだろうか。そこで本稿では、以下の問題設定を考えることとする。
 ○個に応じた指導のあり方として形態にどのような形が想定されうるのか  
 教師一人では対応しづらい形態も中にはある。そうした時にこそ、TTなどを柔軟に運用して実現を図ることも視野に入れたい。

2 個に応じた指導の先行研究からの知見

 大正期においてドルトン・プラン(1920)などが導入され、個人学習が一部において実施されたことは教育史においてよく知られたことである。
 戦後の昭和26年に刊行された倉澤栄吉の『国語教育の問題』(世界社)は、いち早く学習者の能力に目を向けて「能力別グループ学習」を取り上げている。その中で「教師が常に一人一人についてよく評価し、愛情を注いでおれぱ、適当な有効な能力別学習ができる」と指摘している。しかし氏は、当時の状況の中では、能力別グループ学習の困難であることを述べている。
 同年の平井昌夫の『国語の能力別グループ指導についての研究』(東洋館出版、昭和25年『ことばの教育』四月号に発表済み)において、能力別指導は一斉指導と個別学習、集団学習と個人指導を併せもったものとして著している。平井の提示は、この後に大きな影響を及ぼすものとなった。
 また昭和31年の西尾実他編『国語教育辞典』(朝倉書店)には、「個人差に応じた学習指導」の項があり、「学習の能力やしかたがそれぞれ違う児童・生徒に対して、その違いを考慮して学習指導を調整すること」と定義されている(執筆者は平井昌夫)。さらにその種類として ①個人指導 ②能力別学級による指導 ③学級内での能力別グループ指導 ④個別指導 の四種をあげている。
 昭和二十年代における能力別グループ学習の流行は、アメリカの教育思潮を背景にもっている。しかし.アメリカにおいては、その思潮や方法も後退していく。それは、学習者の興味・関心や必要、目的を考えていないことや、個人差が無視されることとなること、差別観を生むことなどの理由からであった。代わって個別化された学習へと転換Lていくこととなる。六十年代のことである。
 近年(2001)の刊行である『国語科重要用語300の基礎知識』(執筆:土山和久)では、個別学習を「学習者一人ひとりの学習を保障するもの」とし、自由選択科目など学校制度改革に対応したものとしてとらえている。
 教育思潮の背景は大きく変わったものの、個を生かすという学習のあり方は、不易のものとして確認することができる。
 これらの著作や辞書類などを基に、個に応じた指導の留意点をあげるとすれば、以下のような点である。
○学習者の実態に応じて適切な学習形態を選ぶこと
○学習材などの多様な設定をすること
○学習課題の多様な設定を図ること
○個に応じた学習と一斉など全体での学習を学習過程において関連をもたせること
○TTなどの指導体制や指導方法を工夫すること

・・・・・・(以下、本誌をご覧ください)