 |
2005.7 July |
|
| 特集 いま、古典教育が目指すこと |
| 【論文】[1] |
発見に導き、学び手を育てる古典教育 〜古典観の見直しと授業改善を中心に |
渡辺春美 |
|
|
はじめに 〜切実な課題としての古典教育
平成14年度に実施された高等学校教育課程実施状況調査の一環として「質問紙調査」が行われた。古文・漢文が「好きだ」ということに対する「どちらかといえばそう思わない」、「そう思わない」という回答は、合わせると70%を超えている。古典に対して興味・関心を持たない学習者が増加し、古典離れ、古典嫌いに至っているという実態の報告は、戦後の早い時期からなされていたが、今日の実学志向と相俟って、その傾向は強まっていると見える。古典の学習が、学習者の生活と精神を相対化し、認識を新たにするとともに、文化の継承と発展とに関わることを考えれば、古典教育の改善は、国語教育に携わる者の切実な課題の一つであろう。
本稿では、発見(感動)に導き、古典の学び手を育てる古典教育の創造を求め、まず、古典観をとらえなおし、古典教育の意義と目標を明らかにする。ついで、古典教育の改善について具体的に考えていくことにしたい。
一 古典教育の意義と目標
先に述べた古典教育の現状を改善するためには、古典観そのものをとらえ直すことも必要になってくる。従来、古典を優れた典型、範型であるとする古典観が有力であった。このような古典観に立つとき、古典教育は、典型、範型としての古典を学習者に教え与えることになりがちであった。学習者の問題意識に重ねた創造的な読みは、しばしば恣意的な、幼い読み、誤った読みとして排された。古典は、多くの学習者によって内面化されることなく、遠い存在になっていった。
一方に、古典を次のようにとらえる古典観がある。古典は、虚構の文芸作品を含めて、時代状況を生きた人々の生活と精神の記録であり、文化伝統の創造と維持に関わりつつ、時代を経て読み継がれ、今日に生きている。それは、読む者に応じ、時に応じて様々な姿で立ちあらわれる。ここに見出されるのは、古典を、学習者との関係の中に立ちあらわれる関係概念とする古典観である。古典は、学習者との関係性の中で様々な姿で立ちあらわれ、学習者の生活と精神を相対化し、認識(感動)を新たにさせる。古典教育の意義はここに認めることができる。このような古典観に立つとき、学習者の古典への積極的な関わりは、読みに不可欠のこととして求められる。豊かな古典教育は、①学習者と古典との出会いを確かなものとし、②学習者自らが古典を読み深め、感動・認識を深めることによって、その価値を発見できるようにするとともに、③学習者の古典を読む力を育てることを通して、C自立した古典の学び手を育てるところに求められる。
二 古典を読む力の明確化
しばしば問題とされてきた方法に、古典文法を中心とした訓詁注釈的な指導がある。古典教育改善の試みが様々になされる一方で、古典教育になお根強く存在している。このような考えにもっとも不足しているのは、古典を読む力の全体構造の把握であろう。ここでは、古典を読む力を、知識・技能・態度に分けてとらえたい。[知識]には、①言語要素、②言語表現、③古典に表れる生活・社会、有職故実、宗教、④古典の書かれた時代背景や時代思潮に関する知識が含まれる。また、[態度]については、①古典への興味・関心、②古典に親しみ、進んで読もうとする態度、③古典を読むことによって、豊かに生きようとする態度が考えられる。[技能]については、次のようにとらえられる。
①文章の内容のあらましを、よりすばやく、より的確に把握する力。
②語句の意味を理解する力。
a.自己の経験とことばとを結びつける力。
b.辞書を必要に応じて有効に利用する力。
c.語句の意味を文脈から推定する力。
d.漢字の構造・語句の構造を理解し、それを応用する力。
e.助詞・助動詞の文中における意味・用法を理解する力。
③文の組立をとらえ文意を明らかにする力。
④指示することばが文中の何を指しているかを指摘する力。
⑤文と文との連接関係をとらえる力。
⑥文・文章の内容と表現の強弱軽重をとらえる力。
⑦必要ならば、注釈書、参考書、口語訳を利用する力。
⑧表現形態に即した読み方をする力(文学的文章の場合)。
a.作品の形態や傾向に応じた読み方ができる力。
b.作品のあらすじ・場面(時・場・人物)・構成を読み取る力。
c.作中人物の思想や性格および心理の動きを読み分ける力。
d.文体の特色や表現のうまみなどを感得できる力。
e.作品を通して、ものの見方・感じ方を理解する力。
f.作品の主題を読み取る力。
⑨読んだ古典を主体との関わりにおいて理解し、批評する力。
|
このように古典を読む力をとらえるとき、訓詁注釈・文法指導が読みに果たす役割は相対的に見て大きくないことが理解される。古典を読む力の育成は、古典との出会いをとおして価値発見に至らせる学習活動の様々な場面で多面的に行われることを必要とする。
・・・・・・(以下、本誌をご覧ください)
|
|
|
|