2005.12 December
特集 音声言語指導の密度を高める
【論文】  音声言語指導をどう改善するか
  〜他者と切実に関わる「話すこと・聞くこと」の学びを
河野順子
一 音声言語指導の何が問題か

 本稿では、音声言語指導を国語科学習指導の領域である「話すこと・聞くこと」領域として捉え、述べていくこととする。
 学習指導要領にキーワードとして「伝え合う力」の文言が表示されてから、実践現場でも「話すこと・聞くこと」を取り上げて研究を行う学校が増えてきた。
 しかし、話すことを「型」として強要するような音声言語指導にとどまっていて、その結果、書いた原稿をひたすら読んだり、原稿を覚え込んで話したりすることに終始する授業が散見される。そのために、他者との関わりの中で、状況に応じて臨機応変に話を展開するという「伝え合う」力の育成には程遠い営みとなってしまっている。したがって、生徒たちは、話すことの喜び(他者と話題を共有することの楽しさ、分かり合えることのうれしさ)、また、意見が異なったとき、なぜそうなのかと真に自分に向き合うことの重要性に気づくことなく、「話すこと・聞くこと」の学習が進行することになる。
 これでは、国語科における「話すこと・聞くこと」の学習が生活に生きて働くことにならず、教室空間に閉じてしまうだろう。

二 他者との関わりを通して育てる「話すこと・聞くこと」の土台としての対話力

 発達心理学者であるヴィゴツキーは、言語の発達を人と人とが交わす言葉(精神間的機能)とそれを契機に私たちの中に内なる言葉(内言)が生み出される(精神内的機能)の二つの回路で捉えた。
 このヴィゴツキーの理論からは、わたしたちの言葉の育ちには、他者との関わりが不可欠であることを教えられる。それなのに、「話すこと・聞くこと」の営みにこの他者との関わりが十分に配慮されないままに話すこと、聞くことの学習が行われているところに、現場実践の「話すこと・聞くこと」教育の停滞の一因があると考えられる。
 丸野俊一(2005)は、理想的な対話を「創造的批判的対話」と捉え、こうした創造的批判的対話が成立するまでの発達過程モデルを提案している。この発達過程モデルを参考に、理想的な対話がどのような条件のもとで成立するかを考えてみたい。
 乳幼児期、私たちは、母親を初め、身近な人たちとの関わりの中で、言葉を獲得していく。このときの獲得の仕方は、大人の側がまだ十分に言葉を発することのできない乳幼児の気持ちを察するという、乳幼児にとっては、自分の気持ちを周りの人たちが包み込むような形で理解してくれるという対話関係を基盤に言葉を獲得していくことになる。それが、児童期になると、未知の人に自分の感情や体験や考えを語るという対等の関係での対話を体験することになる。この段階で、児童は、他者との間に「分かり合えない」「通じない」という心理的葛藤をいやというほど体験することになる。実は、こうした他者との通じ得ないという体験が言葉の発達のうえでは重要な体験となる。通じないからこそ、どうしてうまく通じないのか、通じるようにするためにはどうしたらよいかという自己内対話が生まれてくる。「自己内対話とは、自分の中に自分の思考の営みや振る舞いを対象化するもう一人の自分(視点)が生まれ、その視点から自分の営みを振り返るような対話である」。すなわち、自分の考えなどを表現する自分とそれを対象化する自分とが対話する営みである。
 こうした自己内対話が生まれるからこそ私たちは、自分の考えや思いを適切に表現するためにはどうすればよいのかと自分の話すこと・聞くことの営みのあり方を切実に捉えようとするのである。このとき、私たちの話す力・聞く力が育成されると言える。
 こうした自己内対話の発達に大きな影響を与えるのが、学校教育の中で求められる「説明する行為」であると丸野は指摘している。説明するためには、ただの思い付きを述べるだけではいけない。その根拠を述べねばならない。自分が何処から、また何を根拠にそのように感じたのか、考えたのか、自分の考えや感じ方の発生の起源にも立ち戻らなければならない。この根拠や考えが生み出された起源を確かめるためには、その根拠や起源は過去に自分自身が体験した経験や既有知識の中にあるのか、あるいは他者とのやり取りを聞き取る中で生成されたものなのかというように、自分の思考過程を吟味する必要がある。こうした他者や状況に開かれた自己内対話や他者間対話ができるようになることが「話すこと・聞くこと」指導のうえで重要となる。
 では、こうした自己内対話や他者間対話はどういうときに促されるのであろうか。それは、自分の思考過程を対象化し、第三者の立場に立って、それを批判検討するという状況において発揮されると考えられる。こうした状況の中で分析力・批判力が育ってこそ、自分の意見と相手の意見の違いを認め、その違いをうまく活かしながら、繋ぎ合わせ、単独では考えも及ばない新たなアイデアが生み出されるような創造的対話が可能となる。
 この自己内対話による他者のまなざしの獲得は、小学校中学年以降に、メタ認知力として本格的に発達していくとされている。メタ認知力とは、自らの行為をモニタリングしコントロールして、よりよい行為へと高めていく力である。こうしたメタ認知力が、「話すこと・聞くこと」において発揮されることによって、理想的な「話すこと・聞くこと」行為が成立していくと考えられる。
 以下、生徒の内に自己内対話を生成させ、それが他者間対話を創造的な対話へと展開していけるような「話すこと・聞くこと」教育の実現へ向けて留意していきたい点を述べていくことにしたい。

・・・・・・(以下、本誌をご覧ください)