 |
2006.5 May |
|
| 特集 表現意欲を喚起する作文指導 |
| 【問題提起】 |
表現意欲喚起の戦略 〜書くことへ向かう意志を育てるために |
町田守弘 |
|
|
1 作文指導の問題点
学校教育の中で、「書くこと」の学習指導すなわち文章表現(作文)指導は、常に確かな位置を占めてきた。小学校から大学に至るまでのすべての校種で、作文指導が繰り返し実践され、効果的な指導が模索されている。ただし学校で十分に指導されているにもかかわらず、学習者が思うように文章を書けるようになったとは言い難い状況がある。その原因を考えると、次のような問題点が浮上する。
① 学校で書く作文に興味が持てず、書くことに意欲的になれない。
② 日常生活の中で公的な文章を書く機会が少ない。
③ 効果的な指導法が開発されず、文章表現技術を習得することができない。
④ カリキュラムの面で、体系的な文章表現指導を確立しにくい。
第一点として、学校で作文の課題とされるものが、学習者が自主的に意欲を持って取り組めるものにはなりにくいという問題がある。特に行事作文と称される作文や読書感想文などにおいては、彼らが主体的に取り組める課題は少ない。本稿では特にこの問題に着目して、重点的に検討を加えることにする。続く第二点は、日常生活の中で子どもたちは友人との間で携帯メールのやり取りをするような私的な活動が多く、公的な文章を書く機会が少ないという問題である。学校で学習した文章の書き方を身近な場所で実際に生かすことが困難なため、表現力が定着しにくくなっている。そして第三点は、文章の書き方に関する文章表現技術が効果的に指導されていないことから、学習者が具体的な文章を書く技術を習得できず、表現力も伸びないという問題である。言語技術に関する研究が進んではいるものの、体系的な書く技術の指導はまだ徹底されていない。そして第四点は、多くの国語科教科書では作文の単元が分散して置かれていることから、年間を通しての体系的な指導が実施しにくいことである。1978年版高等学校学習指導要領で「国語表現」という科目が新設されたものの、科目の趣旨が十分に理解されず、教育現場のカリキュラムに根付かなかったことに、現場の状況が象徴的に表れている。
作文指導を考える際には、常にこれらの問題点に配慮して、具体的にどのような方向から対応するのかを明確にする必要がある。
2 表現意欲を喚起するために
作文指導において最も重視しなければならないのは、学習者の表現意欲を喚起するということである。すべてはそこから出発する。表現するという行為は本来楽しい行為であるはずなのに、学校で強制的に書かされる「作文」は苦痛以外の何者でもない。その点を克服しない限り、効果的な作文指導を構想することは困難である。興味・関心・意欲は学びの根源にあるもので、授業を通してそれらを喚起することをまず工夫する必要がある。本稿では、これらを「書くことへ向かう意志」として把握したうえで、その意志を育てることを主要なテーマとして、具体的な方策を考えることにしたい。
書くことへと向かう意志を育てるためには、特に次のような点への配慮が必要である。
① 書くことの効果的な教材を発掘すること。
② 学習者を円滑に書くことへといざなうための課題を工夫すること。
③ 書くことの具体的な場所を設定すること。
④ 個人・グループ・クラスの各レベルにおいて学習を展開し、「教室の文化」を生かした効果的な評価を実施すること。
まず配慮すべき点は、学習者の書くことへと向かう意志を育成できるような力のある教材を発掘することである。表現意欲を喚起するために、子どもたちの「いま、ここ」を大胆に取り込んだ教材開発を目指したい。わたくしはそれを「国語教育の戦略」として、具体的な提案を続けてきた。その中には、サブカルチャーに属する素材が多数含まれている。すなわち、多くの学習者が関心を寄せる漫画、アニメーション、映像、音楽、テレビゲーム、インターネット、携帯電話などのメディアを積極的に取り入れて、国語科の教材として成立するぎりぎりの境界線上に位置付けてきた。例えば教育的見地から常に批判の対象となるテレビゲームのような素材も、意図的に教材化してみる。テレビゲームの中に内在する、子どもたちの心を引き付ける力に注目するからである。ただし自明のことではあるが、テレビゲーム自体を教材とするわけではない。表現意欲を喚起するための装置として、位置付けることになる。
続いて、学習者を自然に書くことの活動へといざなうことが大切である。そのためには学習課題を工夫しなければならない。彼らが意欲を持って取り組むことができるような作文の学習課題を開発することは、授業の出発点である。学習者の関心に即した、また難易度も彼らのレベルにふさわしい課題を提供することによって、学習への円滑な導入が実現できる。
授業の内外で、必ず「書く」という具体的な活動の場面を設定することも重要である。学習課題を通して実際に書く場所を設定することは、作文指導の基本と言えよう。文章表現力は表現するという活動によって育成される。その実際の活動の中から、さらに新たな表現意欲が生まれてくる。書く活動自体の面白さを発見し、生徒たちが主体的に書くという課題に取り組むように仕向けることこそ、作文指導の戦略にほかならない。
・・・・・・(以下、本誌をご覧ください)
|
|
|
|