 |
2007.01 January |
|
| 特集 徹底検証「読むこと」の指導 |
| 【特別寄稿】 |
フィンランド読解教育の動向 |
北欧文化教育研究所長 北川達夫 |
|
|
はじめに
最近、フィンランドの教育が注目を集めている。その理由は、OECDが実施した学習到達度調査(PISA)で、フィンランドが好成績をおさめたことによるものだ。このことから、日本もフィンランド教育の制度や方法から学ぶべきとの声が高まっている。だが、フィンランド教育省や国家教育委員会が言明しているように、PISAにおける好成績の背景には、フィンランドの教育改革がある。そして、その改革はまだ途上であって、現時点では完遂していない。よって、フィンランドの制度から学ぶにせよ、方法から学ぶにせよ、今後の動向を見きわめた上で参考にする必要があるだろう。本稿では、フィンランドの読解教育に焦点を合わせ、その動向について簡単に紹介することとしたい。
フィンランドの新指導要領と読解教育
従来、フィンランドの国語教育は読解教育を中核としてきた。ただし、ここでいう「読解教育」とは、いわゆるPISA型読解力を養うための教育(欧米型の読解教育)であって、日本の読解教育とはやや異なる。すなわち、テキストの内容を正確に理解し解釈するだけではなく、テキストに関して自分の意見を表明することも求める読解教育である。このような読解教育では、単に「読む」だけではなく、意見を表明するときに「書く」あるいは「話す」という技能も必要とされる。これにより、基本的な技能を相互に関連付けながら育むことができるのである。
二〇〇四年の指導要領改訂により、読解の対象が大幅に拡がった。それまでは文章が中心だったのだが、絵や図表やグラフなども読解の対象とされるようになった。もはや読解の対象に制限はなく、指導要領策定者の表現を借りれば、「情報を取り出せる素材であれば、すべて読解の対象」なのである。あらゆる素材を読解の対象とすることは、柔軟な読解力を育むと同時に、社会において生きるための知識と技能を育むのに資するという。
この改訂によって、テキストから情報を取り出すにあたっては、「読む」に加え、「聞く」や「見る」といった技能も求められるようになった。さらに、テキストに関して自分の意見を表明するにあたっても、「書く」や「言う」に加え、絵や図表やグラフなどを効果的に用いる技能も求められるようになったのである。
このように読解の対象が拡大したとはいえ、読解教育の本質は変わらない。というのは、読解のプロセス自体には、何らの変更もないからである。
読解のプロセスは、大きく二段階に分けることができる。第一段階は、テキストから情報を取り出し、取り出した情報を統合・分析・評価・解釈し、テキストに関する自分の意思を形成するまでのプロセス。第二段階は、その形成された意思を、テキストから挙証・論証しつつ、自分の意見として表明するまでのプロセスである。
いかなるテキストを扱うにせよ、このプロセス自体は変わらない。テキストに応じた情報の取り出し方法や、表現手段としての利用方法に習熟する必要はあるが、読解プロセスの本質的な部分は同じままなのである。
今般の指導要領改訂により、読解の対象が大幅に拡がったため、フィンランドの国語教科書は大きく様変わりした。だが、その読解教育のメソッド自体に大きな変更はない。肝心なのは、読解プロセスの土台をしっかりと構築することであって、珍奇なテキストの対応に汲々とすることではないのである。これは、今後、日本においてPISAの非連続テキストに対応した教材づくりや指導をする上で、大いに参考にすべきことだと思う。
沈黙の文化の克服
二〇〇〇年と二〇〇三年のPISAにより、日本の生徒は自分の意見を論理的に述べることが苦手であることが明らかになった。これは、単に日本の生徒が意見を書く訓練を受けてこなかったことも一因だと思うが、欧米と日本の文化的違いによる部分も大きいという。つまり、欧米は「弁論の文化」だが、日本は「沈黙の文化」であり(注1)、そもそも日本人は人前で自らを主張するのが苦手だというのである。
おもしろいことに、フィンランドも、「弁論の文化」のヨーロッパに位置するにもかかわらず、「沈黙の文化」であることを自他ともに認める国である。そのため、近年のフィンランドの国語教育では、「沈黙の文化」を克服し、人前で自らを主張できるようにするための方法を模索してきた。一般に、第一〜第二学年のうちに「沈黙の文化」を克服することにより、第三学年から始まる本格的な読解教育に備えるのである。これには様々なパターンがあるが、ここでは代表的な一例を紹介することにしよう(注2)。第一段階は、人前で声を出すことができない児童のための到達目標である。
- 第一段階
-
- ① 教科書の、自分の好きな箇所を人前で音読する
- ② 自分の書いた作文を、教師に人前で読んでもらう。
- 第二段階
-
- ① 教科書の、教師が指定した箇所を人前で読めるようにする。
- ② 自分の書いた作文を、自分で人前で音読する。
- 第三段階
- ・教科書の、自分の好きな登場人物を人前で演じる。
- 第四段階
- ・教科書の、教師が指定した登場人物を人前で演じる。
- 第五段階
- ・物語の動物の登場人物になりきって、動物の言葉で演じる。
これは意見を述べるための訓練というより、その前段階となる訓練である。人前で自らを表現することに対する、抵抗感や羞恥心を緩和するための訓練であるという。ここで設定されている到達目標は進度や成長に応じたものであり、全員が第五段階まで到達する必要はない。二年間かけて第一段階を達成しても構わないのである。どのような形にせよ、人前で自らを表現することが重要なのだ。
・・・・・・(以下、本誌をご覧ください)
|
|
|
|