一 学力調査について
1 学校教育の課題と学力調査の実施
近年,いわゆるゆとり教育が実施される中で,学力低下への懸念が示されるとともに,学校教育において子どもが身に付けるべき力や、その力を育成する具体的な道筋が不透明で見えにくいなどの指摘がなされている。
また,学校教育を支え,その成果に対して責任を負う教育行政も,学校教育の現状や課題を十分に把握できているか,保護者をはじめとする国民や住民に対して十分に説明責任を果たしているか,学校を支えるための条件整備を十分に行っているかなど,改善すべき課題を抱えている。
こうした問題意識がある中で,児童生徒の学力や学習状況について,いくつかの国際調査、国内調査が実施され,次のような課題が示され,国民の大きな関心を呼んだ。
@ 国際学力調査(PISA2003,TIMSS2003)において,読解力が大幅に低下するとともに,我が国がこれまで最上位にあった数学や理科についても低下傾向が見られること。
A 国立教育政策研究所が小中学校を対象として実施した教育課程実施状況調査(平成一六年一,二月実施)において,全体としては学力の低下傾向に歯止めが掛かったものの,国語の記述式問題や中学校数学などに課題があること。
B 児童生徒の学習意欲や生活習慣などについて,学力調査と併せて実施している調査結果において,「勉強が楽しいと思う児童生徒の割合」や「学校外での一日の過ごし方:宿題をする時間」などが必ずしも十分でないこと。
このような中,児童生徒の学力水準の保証に対する社会的な関心や保護者からの要請は,急速に高まっている。
文部科学省が平成一七年三月に実施した「義務教育に関する意識調査」においては,保護者の六割強が全国学力調査の実施に賛成している。また,社団法人日本PTA全国協議会の調査では,約七割の保護者が「よいと思う」と回答している(平成一七年一二月実施「教育に関する意識調査」)。
都道府県等の教育委員会においても,平成一七年度においては、三八の都道府県及び一二の政令指定都市で学力調査を実施している。隔年で実施しているものを含めるとほとんどの県市で調査を実施している状況にある。
2 中央教育審議会の答申
こうした状況を背景に,平成一七年一〇月二六日の中央教育審議会答申「新しい時代の義務教育を創造する」において,教育の結果を検証し質を保証する観点から,「子どもたちの学習到達度・理解度についての全国的な学力調査を実施することが適当である」と提言されるなど,全国的な学力調査の実施の方向性が示された。
答申においては,国は,憲法に定められた教育の機会均等や全国的な教育水準の維持向上といった義務教育の根幹について保証する責務があり,義務教育における教育の質を保証する構造に改革するため,その基本方向として,
●目標設定とその実現のための基盤整備を国の責任で行った上で(国の責任によるインプットを土台にして),
●市区町村・学校の権限と責任を拡大する分権改革を進めるとともに(市区町村や学校がプロセスを担い),
●教育の結果の検証を国の責任で行う(国の責任によりアウトカムを検証する)
ことが示され,その上で,国の責任により全国的な学力調査を実施することが提言された。
一方,同答申においては,「実施に当たっては、子どもたちに学習意欲の向上に向けた動機付けを与える観点も考慮しながら、学校間の序列化や過度な競争等につながらないよう十分な配慮が必要である」,「具体的な実施の方法、実施体制、結果の扱い等について更に検討する必要がある」などの指摘がなされた。
これらを踏まえ,文部科学省においては,全国的な学力調査を平成一九年度から実施することとし,その実施に向けて専門家検討会議において具体的な実施方法および調査の内容等の検討を行い,平成一八年四月に報告を取りまとめ,公表した。その内容を踏まえ,同年六月には,都道府県教育委員会等に実施要領を通知した。
二 全国学力・学習状況調査の実施
全国学力・学習状況調査(以下、全国調査という。)は,義務教育における各学校段階の最終学年における到達度を把握するため,小学校第六学年,中学校第三学年の原則として全児童生徒を対象に,平成一九年四月二四日に実施することとされている。
調査の第一の目的は,「各地域における児童生徒の学力・学習状況を把握・分析することにより,教育及び教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図る」ことである。
国全体の状況把握を行い,学習指導要領などの国段階での施策の改善を図るという目的だけであれば,教育課程実施状況調査の規模(問題冊子ごとの抽出率:1〜1.5%)で実施することも考えられるが,自治体や学校単位での学力の分布の状況を把握して義務教育の機会均等や水準の維持向上を把握検証することや,学力と学習環境等との相関を,個別の自治体や学校ごとにきめ細かく把握・分析し,各教育委員会・学校が施策や教育活動の改善を図っていくためには,原則として全児童生徒を対象とする調査が必要である。
調査のもう一つの目的は,「各教育委員会,学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し,その改善を図る」ことである。
対象学年の全児童生徒が同一問題で調査を受け,その分析結果を教育委員会や学校などが活用することで,それぞれが全国的な状況との関わりにおける自らの現状を把握することが可能となり,今後の改善に生かすことができる。すべての教育委員会や学校が,提供される分析資料を用いて,自らの施策や教育活動の結果を検証し,改善に生かしていく仕組みを構築していくことが求められる。
全国調査は,国,教育委員会,学校が,それぞれの段階で,PDCAサイクルに基づき教育活動等の結果を検証するための具体的な方策・手段として実施されるものである。
・・・・・・(以下、本誌をご覧ください)
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