2009.12 December
特集 漢字、語句・語彙の指導が変わる?
【基調論文】
漢字指導に関する改訂の要点と指導の要件
千々岩 弘一(鹿児島国際大学教授)

一 改訂の要点

新「学習指導要領」が、平成二〇年三月二八日に告示された。中学校国語科における漢字指導の改訂の要点は、以下のとおりである。

1 漢字の書字力(漢字を書く能力)に関して、第二学年の段階で、これまで「学年別漢字配当表の漢字のうち九五〇字程度の漢字を書き、文や文章の中で使うこと。」となっていた点を「学年別漢字配当表に示されている漢字を書き、文や文章の中で使うこと。」と改めたこと。(引用箇所の傍線は、稿者。以下、同様。)

2 漢字の書字力に関する第二学年の改訂を受けて、第三学年の段階で、これまで「学年別漢字配当表に示されている漢字を書き、文や文章の中で使うこと。」となっていた点を「学年別漢字配当表に示されている漢字について、文や文章の中で使い慣れること。」と改めたこと。

一見して、漢字の書字力に関する指導が強化されたことが分かる。これまで、第三学年の指導事項であった内容が第二学年の指導事項となり、加えて第三学年では漢字の書字力を「使い慣れる」レベルに高めることが求められている。

なお、小学校国語科においても、漢字指導に関する大きな改訂がなされている。

1 漢字の書字力に関する指導事項として、第一学年から第六学年までに、「文や文章の中で使う」ことが追加されていること。

2 「第三 指導計画の作成と内容の取扱い」において、「当該学年より後の学年に配当されている漢字及びそれ以外の漢字については、振り仮名を付けるなど、児童の学習負担に配慮しつつ提示することができること。」と、いわゆる「交ぜ書き」を減らし振り仮名付の表記を多くして漢字の読字力(漢字を読む能力)の育成を強化するように改められたこと。

これらの改訂点から分かるのは、漢字の書字力強化の動きは既に小学校から始まっているということであり、読字力の強化を目指して「正書法」的な考え方に基づきながら振り仮名を活用することが求められていることである。この振り仮名の活用の範囲は基本的に「常用漢字表」内の漢字に限定されてはいるが、読字力の伸長は書字力の伸長に繋がるものであり、中学校段階での書字力育成の強化に影響を与えてくることも間違いない。

二 改訂の背景

漢字に関する指導事項改訂の背景には、「教育基本法」・「学校教育法」の改正がある。中でも、「学校教育法」の第三〇条二項に示された、学力の骨格的要素を「基礎的な知識及び技能」・「思考力、判断力、表現力その他の能力」・「主体的に学習に取り組む態度」の三つの柱で捉える考え方の影響は大きい。この考え方に基づいて国語学力の育成を想定したとき、漢字力の重要性は一層高まってきている。これが、小・中学校における漢字の指導事項を強化する第一の背景として存在する。

また、「学校教育法」の一部改正に先立つ、文化審議会の答申「これからの時代に求められる国語力について」(平成一六年二月三日)において、国語学力の基盤として語彙力の育成が強調されたことも漢字指導改訂の背景をなす。漢字は、単なる表意文字ではなく、語の根幹をなす表語文字としての性格をもつ。したがって、語彙力の育成には漢字力の育成が不可欠となる。

さらに、「これからの時代に求められる国語力について」及び「文字・活字文化振興法」(平成一七年七月二九日)で、読書指導の一層の充実が求められたことも、漢字力(中でも読字力)育成の必然性を高め、指導事項等の改訂に繋がっていく。

加えて、PISA調査における読解力の低下を受けて、平成一七年一二月に文部科学省が示した「読解力向上プログラム」の実現を目指すとき、読解力の基礎に培う漢字力育成の必要性が高まってきていることも、背景の一つである。

そして、これらの「答申」や法的整備を踏まえて告示された新「学習指導要領」の目玉である「言語活動の充実」を実現しようとするときも、漢字力の育成は不可欠である。各教科等の学力の育成のために、これまで以上に各教科に必要な言語活動を取り入れていくことを求めているのが「言語活動の充実」である。各教科等の学習活動は、言語(主に国語)を媒体として展開される。たとえば、社会科の調べ学習において、資料(文章やグラフなど)を読解したり要約したりするといった言語活動も、言語を媒介として行われる。また、音楽科の鑑賞学習においても、感動の内容やその根拠を記述する言語活動は、言語を媒介としている。したがって、各教科等の言語活動を支える国語学力として、漢字力の必要性はいやがうえにも高まってくるのである。

これらを踏まえ、平成二〇年一月一七日には、中央教育審議会の「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」が出され、中学校の漢字指導改善の方向性は「漢字の指導については,社会生活や他教科等の学習における使用や,読書活動の充実に資するため,常用漢字の大体を読めるようにするとともに,学年別漢字配当表に配当された漢字を使い慣れるようにする。また,社会生活において確実に使えることを重視し,生徒の習得の実態に応じた指導を充実する。」(「答申」七七頁)と示されることになる。新「学習指導要領」の漢字指導のあり方は、直接的にはこの「答申」を基盤として改訂されている。




(以下、本誌をご覧ください)