本書は,日本政治の新しいタイプの教科書である。これまでの日本政治の典型的な教科書は,例えば,概論,憲法,選挙,政党,国会,官僚,利益団体,メディアなどの章から構成され,各章ではその領域の専門家がまずある種の問題提起をした後,制度の歴史と運用,アクターの活動と特徴,最新動向,問題点などを説明し,最後に参考文献を挙げるという書き方が一般的であった。しかし,この書き方にはプラスとマイナスの両面がある。
プラスの側面は,筆者の視点がその章を通じて一貫しており,各章はコンパクトにまとめられ,読者は全体像を理解しやすい,という点である。マイナスの側面は,筆者の関心事に力点が置かれ,一部の側面だけが強調される結果,読者は知りたい情報を得ることができるとは限らない,という点である。また,第2次世界大戦後すでに70年が経ようとし,日本政治を考える上で重要な様々な事件や事例が起こっているにもかかわらず,従来型の教科書では,構成とスペースの関係上それらを網羅的に記述することはできない。もし主要な事件や事例をすべて挙げるとすれば,それは教科書ではなく,日本政治用語集または日本政治事典になってしまう。
こうした点を考慮して,本書は,12章(分野)から構成されているものの,それぞれ内容において完結した122の独立テーマから構成されている。その結果,これまでの教科書ではできなかった複数の重要なテーマに焦点を合わせ,それぞれの専門家に特に最新動向と論点を中心に広く解説をしてもらうことが可能になった。また,第8章をこれまで日本政治の教科書ではあまり論じられることのなかった司法に充て,裁判員制度から司法試験とロースクール,ハーグ条約まで,今日話題となっているテーマを取り込んだ。読者には関心のあるテーマから読んでもらって構わない。そして,続けて特定の章全体を読んでもらうと,その分野における日本政治の最新動向と問題点の全体像が明確に分かる仕組みになっている。
さらに,テーマ間あるいは分野間の関係をよりよく理解してもらうために,参考マーク(→)を入れた。例えば,個人後援会は議員の世襲化(第2章)を促す要因であると同時に,中選挙区制のもとでの議員行動を決定づける要因である。この場合,中選挙区制(第9章)中の個人後援会という用語の後に(→52頁)と記した。これらの参考マークを活用すると,読者はときには異なる分野のテーマにまたがる重要な事件や事例,理念を関連づけて理解することが可能になる。
編著者を代表して 吉野 孝