理科教育において観察・実験の果たす役割が大きいことは言うまでもありません。子どもたちにとって,観察・実験を通して得た知識は生きた知識であり,科学的な原理・原則の理解をうながす源として大切なものです。よって,理科担当の教師としては,観察・実験の機会を多く設定することが望ましいと考えられます。しかし,経験の少ない先生の中には、「観察・実験が授業時間内に収まらない」,「効果的な実験データが得られない」などの悩みから,結果として観察・実験の機会を減らしてしまう場合も見られます。
限られた授業時数の中で観察・実験を上手に行うには,いわゆる「コツ」や「ノウハウ」を知っていることが大切です。このような「コツ」や「ノウハウ」は教師一人ひとりの経験に依存するところが大きいわけですが,各地域の研究会や同好会の中でも多くの実践が報告され,議論がされています。したがって,研究会や同好会の中で直接手ほどきを受けながら学ぶことが最も望ましいのですが,今回は,どの先生もすぐに授業で実践ができるよう、一冊にまとめることにしました。「コツ」や「ノウハウ」は,科学的に実証できるものでなかったり,理論的に誤りを含んでいたりする場合も考えられますが,子どもたちの科学的な素養を育成し,学習意欲を喚起するという視点にたてば必要不可欠なものであり,貴重な「知的財産」とも呼べるものです。
本書は,毎年どの学校でも行われる定番の観察・実験について,「新任の先生でも無理なく指導できるレベル」で,「一般的な小中学校にある器具を用いて実施できる方法」にこだわって紹介しています。また,本文の中にある「基本操作の解説用シート」は,そのページをコピーし,子どもたちに配布して使用していただけるよう工夫しました。第3編の「観察・実験のスキル」では,ガラス細工の方法やゴム栓の穴の開け方などを基礎的なところから解説してあります。試薬溶液の希釈の方法や加熱器具の取り扱いなど,日常的に必要なスキルも掲載してありますので便利です。
理科教育に携わる多くの先生方が本書を活用され,さらには,より効果的な方法を開発されることを願っています。
信州理科教育研究会長 井出 忠臣