文化庁日本遺産審査委員会委員長
東京大学大学院教授
下村彰男
日本遺産の認定も3回を数え、新たな17 件を加えると全国で54 件となった。本書に掲載されているように、今回も多彩な顔ぶれが認定され、まだ地域や時代に若干の偏りがあるものの、日本の文化的な多様性が徐々に姿を見せてきた。
しかしながら、この日本遺産は一般にはまだまだ十分に知られておらず、来訪者はもとより、認定を受けた地域自身もどのように扱ってゆけばよいのか、戸惑いを感じているように見受けられる。
文化庁のホームページにも紹介されているように、日本遺産は、世界遺産や従来の文化財とはその考え方が異なっている。ある意味、新たな文化財保護への取り組み方と言え、その点をよく認識しておかないと、保護のあり方はもとより、来訪者にどのように提供すればよいのかにも影響してしまう。
価値については、個々の文化財等遺産単体の価値だけでなく、それらが複合することによる地域ならではのストーリーに価値を見いだすものであり、そのストーリーを地域の人々で共有することが重要となる。また、遺産の保護に関しても大切だからと人為を遠ざけるのではなく、遺産全体を地域ならではの生活様式や料理などとともに文化資源としてまちづくりや観光に活用し、そのことを通して遺産の保護を図りつつ、更に総体としてのストーリーを洗練させていくという循環型の保護であると言える。つまり活用を通して、それらの大切さや興味深さを再認識するとともに、遺産の持続的管理や更なる調査、周知等のための財源を確保して保護に結びつけるという、住民と来訪者による参加型の保護とも言える。
そして何より地域の主導が基本である。当初こそ国からの支援を受けるにしても、徐々に地域が自立し、来訪者の方々の共感と支援を得ながら、地域ならではの文化を磨いていく新たな仕組みとして更に発展してゆくことを期待したい。