著者:西村 伸介(にしむら・しんすけ)
福祉住環境コーディネーター・1級、一級建築士、介護支援専門員(ケアマネジャー)。社会福祉法人で住宅改修の設計・施工指導に携わる。介護保険利用の住宅改修を数多く手掛ける。全国から住宅改修の研修・講習会に招かれ講師として指導に当たっている。
筆者は住宅改修の有効活用を願って介護保険制度施行開始の2000(平成12)年に「介護保険で住宅改修」を上梓し、制度改正などを機に4訂まで版を重ねました。しかし、2006(平成18)年度の改正(事前申請制の導入、理由書様式の設定)対応と、住宅改修利用の現状に危機感を覚え、本書を著すことになりました。
(中略)
本書は、以下の要点を明らかにし、有効な住宅改修がなされることを目的としています。
申請時の必要書類として「改修が必要な理由書」があり、原則は担当のケアマネジャーが作成することになっています。しかし、多くのケアマネジャーから「書き方がわからない」「業者が書いてくれるから任せている」との声を聞きます。理由が明確でなければ、手すり一本の取付けも制度を利用することはできません。
例えば、手すり部材には様々な製品があり、知らなければ手すりの選択もままなりません。便器は今やハイテク工業製品となっています。また、介護保険で利用できる福祉用具にはどのようなものがあるでしょうか。このような知識を更新しておくこと、どこで情報を得ることができるかを知ることは、より良い改修工事のために必須です。
「在宅での生活を続けさせたい」という思いがなくては一歩も前に進みません。
本人・家族の要望(demands)と、ケアマネジャーや医療の専門家が判断する必要性(needs)が食い違うこともしばしばです。
家族の同意を得るためには、考え得る最高の提案をし、決断をしてもらわねばなりません。住宅改修に携わる専門家の提案力が問われます。
筆者が携わる改修工事の約2割は退院準備です。このように明確な契機がある場合とそうでない場合……導入時機をどのように見極めればよいのでしょうか?
「いつでもできる」と思っていると「いつまでもできない」ことになりがちです。日常生活の中で不便なところがあれば、危険と感じるところがあれば、できるだけ早く検討すべきです。本人・家族は「いつか良くなるだろう」と希望的観測を持ちがちです。しかし、検討は進めておき、「いつでも施工できる」状態にしておきましょう。少なくとも、制度を利用したいのであれば要介護認定の申請はしておく必要があります。
建築確認を必要とする新築・増築・改築工事ならば設計者(=建築士)が携わり、コーディネート役を務めることもあります。しかし、住宅改修だけの小規模な工事ではだれがその任を負うのでしょうか?「Q16 改修内容をどのようにして決定する?」でも触れますが、明確な決まりはありません。家族が施工業者を選定し段取りを進めることもあります。しかし、多くは担当ケアマネジャーがコーディネート役を負うことになります。
しかし、「コーディネート役=決定権者=責任者」ではありません。コーディネート役は、様々な関係者の意見を調整し、改修案をとりまとめ、制度の申請と施工の手配を進めます。しかし、すべての段階で決定し、責任を負うのは対象者本人(家族や後見人も含む)です。
もちろん、関係者に何ら責任がないわけではありません。もっとも良い、あるいは次善・次々善に有効と思われる改修案を提案する責任があり、決定がなされたら、実行する責任があります。そして提案者は、その改修工事を活用できるようにする説明責任を負っています。
(中略)
本書を、住宅改修に携わる皆様がいつでもそばに置き、現地調査や打ち合わせの場に持参し、活用していただきたいと願っています。制度の改正や新しい工事例は筆者のホームページで順次紹介していきます。是非とも質問や要望を掲示板にお寄せください。
平成19年 12月
西村 伸介