新課程歴史科目の授業づくりに活用できる実践事例を多数掲載!
歴史学習の在り方を模索する教師必携の書!
いよいよ令和4年度から平成30年告示学習指導要領による授業が高等学校において年次進行で始まる。地理歴史科に関してはこれまでにない改訂が行われたように感じているのは筆者だけであろうか。
「地理総合」「歴史総合」が新設され,地理・日本史・世界史も,「探究」として再編成された。「歴史総合」はこれからの時代に生きる子どもたちに,歴史的な見方・考え方を働かせて,課題を追究したり解決したりする活動を通して,民主的な国家及び社会の形成者として必要な公民としての資質能力を育成するために,就中,公民的資質能力の根幹となる力の一つである歴史的思考力を育てるために創設された科目である。また,それぞれの探究科目は「歴史総合」の学習を基礎として,自ら課題を見出す学習や仮説を基にそれを検証する主題学習を通して,歴史的思考力をさらに鍛える科目であると思う。特に今次の改訂では,生徒自身の問いや仮説をもとに教科ならではの見方・考え方を働かせて,課題を追究する活動を通して学習内容を「理解」させることとしている。この「理解」はこれまでの観点別評価の「知識・理解」ではなく,思考力・判断力・表現力等や学びに向かう力(主体的に学ぶ態度)を含めた「理解」ととらえたい。歴史的事象をただ単に知っているのではなく,その知識を活用して,社会生活を送るうえでの「生きて働く力」として活用できることが本当の意味での「理解」だと言える。
歴史学習が暗記であると言われてから久しいが,残念ながら,多くの高校生はいまだにそのように感じているようだ。大学入試の改善が進み,思考力・判断力などを問う良問も出題されるようになってきたとはいえ,多くの大学では知識を再生させるような問題が多く出題されていることは否めない。単なる知識を再生することを学力ととらえることは,今次の学習指導要領が明確に否定している。高等学校の現場では大学入試を睨みながら,歴史学習の本来の在り方を模索している教師も大勢いる。私たち埼玉歴史教育研究会では20年以上も,そのような教師が集まって,歴史的思考力を育て鍛える授業の在り方を模索してきた。
平成30年告示学習指導要領に関しても私たちなりにその趣旨を学び,指導要領の趣旨に沿った授業の在り方を研究してきた。この度,その一部を公刊する運びとなった。平成30年告示学習指導要領の実施を前に優れた解説書も多く出版されている。屋上屋を重ねるようにも見えるが,本書の特色は,すべて平成30年告示学習指導要領の趣旨を前倒しで実践した記録である点にあると自負している。必ずしも成功した事例ばかりではなく,課題もたくさん残された実践であるが,私たちはこうした実践の積み重ねのなかから,歴史学習の在るべき姿を探していくことが歴史学習の研究の正道であろうと考えている。
今後,本書に掲載した実践事例をベースに授業を展開し,よりよい授業を構築して,本書の続編を刊行したい。ご叱責・ご批判をいただければ幸いである。
2021年7月
島村 圭一